「…あなたとわたくしの棘が繋がってしまいました」
今日初めて会った人に、私たちの婚姻関係を結ばれたと言われて驚かない人がいるだろうか。
それも、とびっきりの美女に。
主人公の久我一郎は父親を早くに亡くし、ひとりで小さな妹弟を養っている。
少女漫画家としてまだ駆け出しの彼は、締め切りに追われ、窮地に立たされる。
そんなときにやってきた、アシスタント希望の五色しおり。
無事に脱稿したふたりは、疲労と安心感から床で行き倒れるように眠る。
一郎は、不規則な生活続きで頭が回っておらず、誤って睡眠中の彼女に触れてしまう。
「姫」をしていたというしおりは語る。
事故にも関わらず、しきたりによって、彼女と一郎は婚姻関係を結ばれた、と。
無茶苦茶な話に恐怖すら感じる一郎だったが、しおりの話になにひとつ嘘がないことを身をもって実感することとなる。
彼らはひとつ屋根の下で生活を共にし、次第に心境に変化が生じる。
「今夜はこの素晴らしい気持ちのままでいたいのです」というセリフに、思わずハッとした。
誰かを想うことがどれほど素敵なことか。
日々沢山の人とすれ違い、これまでも多くの人と出会ってきた。
でも、全員を好きになれたわけではない。
誰かひとりを好きになるのって、きっと特別なこと。
そして惹かれるのは理屈じゃないのだ。
「恋とは気づいたら落ちているものよ」なんてよく聞くけれど、本当にそうなんだろう。
なんか気になるアイツ、と目で追っている時点できっと、恋が始まっている。
一郎としおりは、相手のものの見方を知ることで、心を救われる部分がある。
「その不安は分かち合えないものですか?」
嬉しいことだけでなく、不安も分かち合っていい。
長男として、妹弟を育てなくてはならないと気を張っていた一郎が肩の力を抜くシーンは、読み手の強張った身体をもほぐしてくれる。
相手を見つめ、思いやること。
当たり前のようで難しいけれど、この漫画ではさらっとやってのける。
肩に力が入った時こそ、ふたりを見習い、ゆっくり一歩ずつ歩んでいきたいと思う。